夏祭り

予感はあった。
寒いくらいの静謐な空気、完全ドライ、そして晴れた日曜日の朝。
もう一つ言えば、今夏の箱根某所は湿度の高い大気の所為で常にガスに覆われ殆ど走れていない。
溜まりに溜まったストレスは既に臨界点を突破している。
全ての事象が”今朝”に収束しそして発散しようとしていた。


料金所入り口でガンメタのロードスターと白いエキシージのコースインを見届け、僕はゆっくりと侵攻した。

急激に変わってしまった路面温度の所為か、今朝は足まわりが随分柔らかく感じる。
だがこの冷たい空気のおかげで今朝の我が相方はすこぶる調子が良い。
まるで飛び跳ねるようにコーナーを舞う。
それでいてトラクションがきちんとかかるので、自分で言うのもなんだが今朝の我が相方はキレている。
ただ少しフロントが逃げがちだが、これは今朝の乗り方もあるだろう。

単独でもこれだけ楽しいのは中々ない。

そこに朝焼けさんトコの白いNAとNCが到着する。
僕は第三世代の彼に”僕の知ってる事”を教えようと三国で待機しそして復路のゲリラ戦に持ち込んだ。
びっくりしたような顔をした彼は、ウィンカーを右にあげたり左にあげたりしながら一生懸命走っていた。
人が懸命に必死に何かを行う行為は、それが何であれ美しい。
だが、それでは僕が教えたかった事の１％も伝わらない。
これは次回に持ち越しとしよう。

彼をパスし、待っててくれたその前を行く白ケンさんに追いつき、久しぶりに彼とのタイマン。
これは小細工なしの全力戦闘で、やはり後ろから見ると彼の巧さが際立つ。
細かいコーナーはやはり彼の方が一枚上手に見える。
僕のアドバンテージはエンジンの上の伸びくらいだ。

だが、ここから先の高速区間はそのアドバンテージが効いてくる。
僕はS2000の能力をフルに回し、漸く彼に追いついた。

やっぱり速いな・・・

普通ならここで終わりなのだが、何かを感じた僕は駐車場までのポイントまでに
できる限り油水温を落とそうと少し長くクーリングの時間を稼ぐ。
するとUターンポイントで、彼はブロックサインで”もう一本”と伝えて来た。

朝焼けさんからのお願いは、大体が”はい”か”イエス”で答えなくてはならない。
僕らには選択の権利など存在しない。

・・・仕方ない。
僕は取りうるべき戦略を考え、そして先行のポジションを取った。
これは、前半の高速区間で自分のアドバンテージを十分に生かしたいのと
もつれ合ったままのバトルでは冷却に不安があったからだ。

高速区間はその通りに進行したが、流しに来てたロードスターに遭遇してしまい
僕が前半区間で稼いだマージンは霧散してしまった。

三国で譲ってくれたのでハザードでお礼を言い、僕と彼で往路下りのタイマン勝負。
ここは２本ある下りのストレートでどれだけ車速を稼げるかがキモになる。
逆に言えば、それ以外で僕が彼に勝てる要素は少ない。
特に三国を過ぎてすぐの細かい所は、正直僕が苦手としているところでもある。
だからここは”我慢する”と最初から決めてあった。

そして事態はその通り進行し、復路に差し掛かった時の事。

僕には天空を降りてくる百鬼夜行の一団が見えた。
先頭はオレンジ色。

僕には苦い思い出があった。
これを克服するには今しかない。
いやそれよりも、状況を混乱させた方がもっと楽しくなりそうだとの思惑の方が強かった。

僕は瞬時に判断し、彼らが追いついてくるまでゆっくりとクーリング走行を開始した。
後ろの彼がすっと離れたところを見ると、僕の車に何かがあったのかもしれないと考えたのだろう。

彼は僕の仕掛けた罠に嵌ってしまった。

彼の後ろにピタリとオレンジ色が張り付く頃、臨戦体制にあった僕は有利な状況で戦闘を開始した。
すっかり油断していた彼は後ろの橙色のプレッシャーもあり、僕は終始有利に走ることができた。
あとで聞いてみたところ、僕を先頭にその日参戦していた朝焼け本体のほぼ全てが加わったその車列の中で
部分部分で小規模な内部紛争と武力衝突が行われていた。

朝焼けレーシング、魔王レーシング、そしてY中組。
まさに三つ巴。
今朝は前回に続く熱い朝となった。

にわかに活気付いて来た箱根某所。
本体同士の武力衝突、世代間闘争、そして個人的な争い。

自分の能力を発揮できる時間と場所と相手がいる。
これほど楽しい事が他にあるだろうか。
ここには人生を彩る全てがあるのだ。


いやあ、メチャクチャ楽しかった！！
また来週！！


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