2013年7月8日月曜日

Lost





挑戦と無謀は紙一重。
今なら分かる。


僕には重大な疾患が在る。
先天性自己位置消失症候群、つまり方向音痴だ。

漸くそれを認識し始めた最近は、あまり知らない所を走らないようになった。
箱根某所を走れれば幸せな安いオトコの僕は、それでもなんら問題は無かった。

問題なのは、”この先どうなってるんだろう?”という知的探究心の存在だ。
これは人間の持つ原始的欲求のひとつであり、誰もが等しく持つものだ。

ある者は険しき頂を目指し、またある者は極北の果てを目指した。

”・・・行ける”
根拠の無い自信を得た僕は、僕の知らない道を開拓したいという、自らの欲求に身を委ねた。

そして僕は、箱根の山の中で一人頭を抱えた。
迷ったからだ。

知的探究心の後押しは甘い罠だった。
茹だるような夏の日、僕の目からは大量に汗が流れていた。

そもそも、”林道みたいな峠道なら一本道だろう”という思い込みが間違いだった。
それに気付いたのは何回かの分れ道を過ぎた後だ。

記憶を頼りに戻るも、見た事の無い風景ばかり。
”圏外”を無情に映し出すファッキンな景色が、僕を打ちのめしていた。

”・・・はあ”
ため息にも似た丸い煙を燻らすも、グッダーなアイデアは何一つ浮かばない。

その時、前方から一台のベンツがゆっくりと下ってくるのが見えた。
僕にはその綺麗な銀色のベンツがまるで天の使いのように思えた。

この車に付いて行けばきっと帰れる。
その時の僕には、これに縋るしか方法がなかった。

だが、プレッシャーにならないように距離をとって後ろに付いたにも関わらず
僕の想いが異様に映ったのか、前を走るベンツは全力で逃げ始めた。

”違う!そうじゃないんだ!”

僕は必死だった。
砂が浮く低ミュー路では、いつものシフトダウンでは簡単にリアがスライドする。
でも、僕は必死だった。
そんなことにかまってられる程余裕がなかった。
だから僕は必死だった。
7割のコーナーでリアをスライドさせ、ベンツのテールを追った。

勾配が緩やかになり記憶の片隅にある景色が現れた時、漸く僕はスロットルを緩める事が出来た。

多気筒独特のシルキーな排気音を残し去って往くベンツに感謝し、僕は路肩に相方を
停止させた。

タンクに手を添え二度ぽんぽんと叩き、”彼女”の労をねぎらう。
ふと見上げた空には、箱根の山に伸し掛るように入道雲が立っていた。

・・・もう夏だ。

冒険も程々にしよう。
七夕の日に、そう僕は誓いました。

2 件のコメント:

  1. あいかわらずイイ写真撮ってますね
    1枚目が特にいい感じかな

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  2. おつかれさまです!!

    一枚目は迷ってる最中の写真なので半泣きで撮りましたw

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