今日はちょっとアカデミック+αな話を。
現在僕のS2000はGキクチ氏の所に入院しているのは周知の通り。
で、リア周りの振動の原因を調査してもらっているが、どうやら原因はプロペラシャフト。
普通なら交換だが、世の中にはペラシャをバラして色々やってしまう猛者が居る。
今回、相談の上ちょっとペラシャのグリスを交換して様子を見ようと言う事になり
僕はついでに内部の鏡面加工をお願いした。
その際、彼から一つの疑問が。
はたしてその部分に鏡面加工が必要なのか?と。
僕は出来れば鏡面の方が良いと考える。
正確には、必要な表面荒さを考えれば結果鏡面に近い状態になると考えている。
確かにエンジンのシリンダー壁にはクロスハッチがありそれにより油膜を保持している。
ただし、ここでまず明らかにしないとイケナイのは、シリンダー壁に適した潤滑の状態と
駆動部に求められる潤滑の状態はまるで違うと言う事。
そして、エンジン内部の接触面に掛かる圧力とギアや駆動系の接触面にかかる圧力を比較すると
遥かにギアや駆動系の接触面にかかる圧力の方が大きい。
(詳しい説明は省くが、エンジン内部は殆ど境界潤滑の領域であり駆動系は極圧潤滑の領域になる。)
原理原則として、摺動部分の摩擦は小さければ小さいほど良い。
(トルク効率が上がったり熱損失が減る)
これは絶対に変わらない真実。
普通に考えればシリンダー壁も鏡面の方が摩擦が減るので良いように思われるが
それではオイルが保持できず重力に従って下に落ち、油膜切れによる焼き付きや傷がはいってしまう。
つまりシリンダー壁面には、潤滑の為のオイル保持が必要になる。
また、オイルの消費量を抑える為にはピストンリングできちんとオイルを搔き落とさないといけない。
この相反する状態を実現する為に、所謂ホーニングが有効になる。
翻って駆動系の話。
例えばミッションは回転体の塊。
回転体において、軌道面は成る可く平滑な方が振動も少なく異音の発生も抑えられる。
つまり綺麗に回す事が出来る。
(ダイナミックバランスの話とは別次元)
またきちんとした油量が保たれているなら、密閉式の為基本的にはオイルや
グリス量が不足する事もない。
(エンジンオイルのように減る事はない)
だが、ギアや摺動面に掛かる圧力が強く必然的に潤滑状態も厳しくなり油膜が非常に薄い
状態になる為、高温高圧下ではメタルコンタクトを起こし易くなる。
メタルコンタクトとはそのまま金属同士の接触の事で、これにより傷や打痕が入りそのまま
放置すればそこを起点に剥離が生じ結果的には深刻なダメージが生じる。
例えば部品同士が突起状になっていたら、それらが互いにぶつかり剥離にまで至るのは想像に難くない。
またミクロ的に見れば突起状の”先端の油膜”は、突起の形状にも因るがさらに薄くなり
余計にメタルコンタクトを受け易くなる。
状況にも因るが、一般的に油膜厚さはミクロンオーダーである。
通常、設計値としての表面荒さはこの油膜厚さよりも低く抑える事になる。
これにより、メタルコンタクトを回避し寿命を確保する。
軸受けの転動面が鏡面若しくはそれに近いのはこれが理由の一つだ。
油膜の保持(と供給)という意味ではクサビ効果とグリスやオイルで
内部を満たす事である程度満たしている。
(油膜切れは大体が油量不足に因る)
では、鏡面と呼ばれる部分の表面荒さはどのくらいなのか?
鏡面の度合いにも寄るが、1μm以下になってくると所謂鏡面の領域になってくる。
因にWPC加工に寄る表面の凹凸は1μm程度である。
これが僕が駆動部分はなるべく鏡面の方が良いと考える根拠だ。
ただし、ギア部分と軸受け部分では運動の種類が違う(連続的か断続的か)ので
アプローチが少し異なる上にオイル潤滑とグリス潤滑では時間が経った状態での
潤滑状態が変わってくるので必ずしも鏡面が良い訳ではない。
因に爪で引っかかりを感じる傷は、1μmが限界である。
言い換えれば引っかかりを感じる傷は少なくとも1μm以上の傷である。
では、何故メーカーもしくはサプライヤーさんが鏡面加工をしないのか?
ひとつは鏡面加工やバリ取り、精度の追求といった部分は、言う程”簡単ではない”からだ。
この辺りはそれだけで本が書けるくらいの研究項目なので、上記の説明もかなり端折ったものだ。
そして勿論コストパフォーマンスの話もある。
これは、やらなくても十分もしくはやりたくてもできないと言った方が正しい。
それはメーカーが出してくる仕様に対しそこまでしなくてもクリアできるからだ。
だが、それは僕らのようなバカが求めるような仕様ではないので、そこにチューニングの
余地が生まれてくる。
さらに言えば、技術開発において技術の正しさが必ずしも正しいワケではないからである。
”開発は上の役員次第”と言う言葉があるが、それがその辺りを如実に物語っている。
正直に言えば、車に因っては社内政治の被害者みたいなのもあるし技術者のエゴで
出来上がったような車も多数存在する。
車を備に観察し”?”となるような技術部分は、こういう事が裏に絡んでいる場合がある。
ま、今回のペラシャのジョイントがバリバリ!って話は単純にコストの話のような気がするけどね。
エンジン、ミッション、ボディが専用設計なS2000は台数が見込めない車種なのに
当時で400万という今ではもう造れない(と思う)ぐらいのバーゲンプライスだったので
他の部分にコストのしわ寄せがいってしまった事は想像に難くない。
ブレーキなんかは特にそうじゃないかな。
今回、どうせなら鏡面加工!と言った技術的な正当性はこんな感じだけれど
どちらかというとこういう弱い部分に手を入れてゆくのが僕は好きなのです。
単純に速い遅いも重要だけど、車の質もS2000には大事だからね。
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EHL理論の専門家であれば、油膜は絶対に切れないというでしょうね。しかし境界潤滑状態というのもうすでに油膜は切れています。電気抵抗を計った実験が調べればたくさん出てきます。しかし問題は「油膜が切れる」と言いたくなるような突然死(サドンデス)が起こるのはなぜかということです。それに明確な答えを出したのが久保田博士のCCSCモデル。なんと潤滑油由来の表面に張り付いたグラファイト膜(トライボフィルム)がナノメートルのダイヤモンドになるというものです。詳しくは「境界潤滑現象の本性」で検索してみてください。
返信削除ラマン分光のサイトが変。三菱商事が情報操作しているのかな。
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